とある日常の人事部に、一本の電話がかかってきます。
「○○営業所のA君が、3日ほど無断欠勤して、電話にも出ない。どうしよう?」
と。
営業所長は心配して、一人暮らしのマンションを訪ねましたが、応答なし。
物音もしない。電気メーターもじんわりと動いているだけ。
突然の病気で倒れたりしていないか?
外出先で交通事故にあっていないか?
あるいは犯罪に巻き込まれていないか?
心配は尽きません。
「警察官の立ち会いのもと、部屋の鍵を開けるか?」
と焦る営業所長をなだめ、人事部が思いついたことは、
「入社時の履歴書を基に、実家に連絡を入れてみる。」
ことでした。
人事部が社員の親に電話をしてみると、なんと社員は実家に居るとのこと。
ただ、病気で本人は電話に出らず、まだ病名は言えないが、心配ないとのことでした。
電話に出られないほどの病状なのに、自宅に居る?
ひょっとしてメンタル系の不調?
と、人事部では長期の戦線離脱を覚悟しました。
が、数日して本人が出社…
事情を聞いて、真相が分かりました。
実は、プライベートで事件を起こして逮捕され、留置場に入っておりました。
親は子供をかばってか、会社には病気だと偽り、本人は逮捕されて会社に電話などできるはずもなく、結果的に無断欠勤状態となったのでした。
さて、人事部は大変です。
①事件について、社内の処分をどうするか
②無断欠勤した事実を、どう処分するか
③親に嘘の報告をさせたことをどう扱うか
最低でも、この程度は決めなくてはいけません。
①事件の内容から、社内の処分をどうするか
これは意外に簡単です。就業規則に照らして処分の案を決定し、顧問弁護士に相談するだけです。
ただし、重要な注意点があります
有罪が確定するまで、うかつに懲戒処分してはいけない
ということ。
まだ事件を起こした【容疑者】であって、まだ犯人だと確定していないということですね。
誤認逮捕や冤罪もあり得るし、そもそも犯罪ではなかったのかもしれません。あるいは裁判や取り調べの過程で、会社に非がある汲むべき事情が出てくるかもしれません。
本人が明白に自供するか、有罪が確定してからでないと、場合によっては本当は何もしていない社員を処分してしまうことになってしまいます。
この点は事実確認をしっかりすべき要注意ポイントです。
社員が逮捕されることなど、普通はめったに起きないことなので、対応に慣れた人事部などあるはずもありません。
そのため慌てて社員の処分を決めて、会社としての厳しい姿勢を世間に示したくなりますが、よく情報を確認してからにしてくださいね。
弁護士と相談するのが良いと思います。
②無断欠勤した事実を、どう処分するか
これは①と同様に考えてください。連絡が取れる状況にない場合もありますので、結果として無罪なのに無断欠勤になってしまうケースも考えられます。処分を急ぐ必要はありません。
③親に嘘の報告をさせたことをどう扱うか
社員である子供を心配するあまり、かばって嘘をついたのか、社員自身が親にそう言うように頼んだのか、親も状況を把握できていたのかも確かめるのは困難です。
また、社員はともかく、会社にとっては他人である社員の親の行為の責任を社員に取らせるのか?という疑問も湧いてきます
さて、いかがでしたか?
大きな会社ならリスク管理の部署や法務部に相談するでしょう。
しかし、当社の多くのお客様のように社員数1,000名以下の中小企業では、このような場合への対応は人事部が即座に判断をして、対応することが求められます。
滅多に起きることではないからこそ、人事のクールで的確な判断が必要なのです。
もちろん、「まだ判断しない」 という判断も含めてです。
当社は危機管理対応のプロでもなければ、法律の専門家でもありませんが、緊急時に人事部に求められることのアドバイスは仕事としてお受けいたしております。
いわゆる顧問契約ですね。
経験のないことこそ、慎重に外部の知恵を借りながら対処したいものです。
それではまた!!
※今回のストーリーはフィクションですが、社長の前田は会社員時代に何度か社員や関係者の逮捕について対処をした経験があります。
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